炎症とは「異物」に対する防御反応
細胞を痛めつける「慢性炎症」がヤバい
「炎症」とは、細胞に「異物」が入ってきたときの防御反応です。
炎症には2種類があります。体にとって必要な炎症と、体にとって害のある炎症です。
- 急性炎症:体に必要な炎症。怪我をしたときに傷から体に侵入してきた病原菌やウイルスなどの「異物」と戦う。役目を終えたらすぐに静まる
- 慢性炎症:体に有害な炎症。体内で「異物」と認識したものと戦い続ける。慢性的に続き体に負担をかける。
「急性炎症」は体にとって必要な機能で悪いものではありません。怪我を負ったときに傷がズキズキ痛むと思いますが、まさに炎症が起きていて細菌やウイルスを守るための働きがなされています。
問題なのは、現代に多い慢性的に続く炎症(「慢性炎症」)です。
この「慢性炎症」は、細胞や血管にダメージを与え様々な病気を引き起こす原因となってしまうのです。
炎症では免疫細胞が「活性酸素」を武器に戦う
炎症とは「異物」と戦う反応だと言いました。
異物と戦うのは免疫細胞として働く「白血球」や「マクロファージ」などで、戦うときの武器は「活性酸素」です。
「活性酸素」とは非常に反応しやすい酸素のことで、人体にとっても病原菌にとっても猛毒です。病原菌と戦うために必要となりますが、人体で発生しすぎると老化や万病の原因となります。
ちなみに「抗酸化」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、抗酸化というのは活性酸素を除去する活動のことです。
つまり、慢性炎症が続くと、活性酸素が体内で増え続けることになり、人体にとって老化や病気を引き起こすのです。
「活性酸素」は炎症を増やす
慢性炎症は活性酸素を増やすことが分かりましたが、逆に活性酸素も炎症を増やします。
活性酸素は病原菌にとっても人体にとっても毒だと言いました。つまり活性酸素は「異物」であるので、炎症の攻撃対象となります。
つまり、「活性酸素によって炎症が起き、炎症によって活性酸素が出続け…」という負のループに陥ってしまうのです
慢性炎症が起きる原因
さて、「慢性炎症がよくないよ」と力説してきましたが、では慢性炎症を引き起こすそもそもの原因は何でしょうか。
老化
慢性炎症を起こす原因としてまず挙げられるのが「老化」です。
年をとるごとに増えてくる「老化細胞」が慢性炎症を引き起こすからです。
体を構成している細胞には寿命があります。多くの細胞は時とともに分裂して行きますが、分裂の回数は上限50回から60回と言われています。 分裂の上限に達した細胞は「老化細胞」と言います。
ただ、老化細胞が分裂できなくなったからといって、すぐに消えてなくなるわけではなく、しばらくその場に留まります。留まった老化細胞は体にとって「異物」として認識されるので、老化細胞の周りでは炎症を促す物質が増えていき、慢性炎症の原因となってしまいます。
つまり、年をとるとどうしても炎症は増えていくということです。老化はある程度仕方がないことですから、慢性炎症が起こる他の原因を取り除いていきましょう。
オメガ6脂肪酸の摂りすぎ
炎症の原因のひとつとして挙げられるのは、脂質の偏りです。
脂質の種類としてオメガ3脂肪酸・オメガ6脂肪酸などがあります。オメガ3・オメガ6はどちらも細胞膜をつくるという大事な役割を担っていますが、効果は相反するものです。
- オメガ3脂肪酸:細胞をしなやかに保つ。炎症やアレルギー反応を軽減する(青魚に含まれるDHA、EPAなど)
- オメガ6脂肪酸:細胞を強固にする。炎症やアレルギー反応を促進する(サラダ油に含まれるリノール酸など)
気をつけるべきは言うまでもなくオメガ6の方です。オメガ6を過剰に接種すると炎症が慢性化して悪影響を及ぼしてしまいます。
例えば、オメガ6系であるサラダ油に含まれるリノール酸は、体内で炎症性の「アラキドン酸」に変わります。
油がたっぷり使われている揚げ物や炒め物を食べると、オメガ6を増やすことになり、慢性炎症につながります。
肉類の食べすぎ
肉類を食べ過ぎると体内で アラキドン酸という炎症物質が生成されてしまい炎症が促進されてしまいます。
糖質の摂りすぎ
インスリンの過剰な分泌を抑えることによって慢性炎症を抑えることができます 。インスリンのレベルが上がると炎症を促進するアラキドン酸が生まれやすくなります。
内臓脂肪
太っている人は慢性炎症を起こしやすいです。その原因は2つです。
- 内臓脂肪に対して慢性炎症が起きる
- 炎症を抑制する物質の分泌が減る
まずは1から解説します。炎症反応は体外から入ってきた病原菌だけでなく内臓脂肪にも起きてしまうのです。
なぜなら内臓脂肪は体にとっては「異物」だからです。異物と認識された内臓脂肪に対して炎症反応が起きてしまい、慢性化します。
次に2についてです。太っている人はそうでない人に比べて炎症を抑制する働きが弱くなります。
というのも、太っている人の脂肪とそうでない人の脂肪は体内での働き方が違うからです。
- 通常の人の脂肪組織では炎症を抑制する物質(=アディポネクチン)が増えます
- 肥満の人の脂肪組織では炎症を促進する物質が増えます
太っていない人の脂肪組織から出るのは、炎症を抑制してくれる「アディポネクチン」です。アディポネクチンは太っている人ほど分泌が減ってしまうことが分かってます。
つまり、太っている人の体内では、内臓脂肪によって炎症が起こり、その炎症を抑える働きも弱いため、慢性炎症が起こりやすくなるのです。
喫煙
タバコは体に慢性炎症を起こしてしまいます。
タバコを吸うと全身に活性酸素が増えます。タバコ自体に含まれている活性酸素と、タバコの煙によって気管支が炎症を起こして発生する活性酸素です。
活性酸素が増えると炎症が発生します。
精神的なストレス・孤独
孤独感は体内の炎症を起こしてしまいます。
精神的なストレスを受けると、体内でコルチゾールというストレスホルモンが増えます。コルチゾールは「戦いのホルモン」とも呼ばれ生きていく上では必要なホルモンです。しかし、コルチゾールが体内で増えすぎてしまうと「異物」として認識され、これまた炎症を引き起こす原因になってしまうのです。
精神的なストレスは肥満と同様短期的に解決しないので、慢性炎症となりやすいです。
特に高齢者が気をつけるべきストレスが「孤独」です。
実際に孤独にはさまざまなリスクがあることが分かっています。オハイオ州立大学の研究によると、孤独感が強い人ほど注意力が必要とされるタスクの成績が悪かったそうです。心理学者のロイバイマイスターの実験によると、孤独感の強い人ほど知能も下がってしまうと言われています。
理由としては、孤独によって炎症が起き、その炎症によって脳の細胞がダメージを受けてしまうからだと考えられます。孤独な高齢者ほど認知症にもかかりやすいです。
精神的なストレスを解消して炎症を防ぐようにしましょう。
自分の炎症マーカーはCPRの値で分かる
自分の体内で慢性炎症が起きているかどうかを知るには、健康診断の「高感度 CRP」 の値に注目です。
CRPとは「c-reactive protein(=C 反応性タンパク)」 のことです。 炎症がおこると肝臓がいくつかのタンパク質を作って血流に乗せ全身に送り込みます。これが 「CRP」 というタンパク質です。
CRP は0.3 mg/dlが基準範囲です。 この値が0に近いほど安心で、1を超えてしまうと異常と判断できます。
健康診断をしたときには注目してみてください。仮に他のところに異常がなくてもCRPが高ければ慢性炎症が体を蝕んでいる可能性があります。
炎症は様々な病気の「黒幕」
慢性的な炎症は、歯周病・関節炎・膠原病 ・アトピー性皮膚炎・肝炎・腎炎・動脈硬化・うつ病・認知症・がん…など様々な病気につながります。
認知症
認知症の原因は、疲労物質であるアミロイドベータというタンパク質の蓄積によるものだとされています。
しかし、認知症の患者の脳を調べるとアミロイドベータの蓄積が認められないケースもあるそうです。
そこで認知症の別の原因として、炎症が考えられています。脳の中で炎症物質が働くことによって、アルツハイマーの原因となると考えられています。炎症物質である「サイトカイン」は免疫機能を過剰に発生させて脳を傷つけてしまいます。
「アミロイド仮説」が正しいのか、「炎症仮説」が正しいのかはハッキリしませんが、どちらにせよ炎症は防いでいた方がよさそうです。
うつ病
慢性的な炎症が脳の機能にもダメージを与えます。 炎症はうつ病の引き金にもなると考えられています。
実際にうつ病患者を調べた研究でも炎症反応が強く出ていることが分かっています。
一般的にうつ病の原因として考えられているのは、脳内のセロトニンの不足です。セロトニンはメンタルを安定させたり、イライラや焦りを軽減する働きがあります。実際にうつ病の患者に処方される「抗うつ剤」は脳内のセロトニンを増やす薬です。
しかし、うつ病患者のなかには抗うつ剤があまり効かない人がいます。そこで考えられている真の原因が炎症なのです。
つまり、抗うつ剤はうつ病の症状を軽減させることにはなりますが、根本原因である炎症を治さない限り解決にはならない可能性が高いです。
動脈硬化
一般的に動脈硬化の原因は血中の悪玉コレステロールが増えすぎてしまうことが原因と考えられています。
悪玉コレステロールが増えてしまい、血管の中にドロドロと溜まってしまう、溜まった悪玉コレステロールによって血管が塞がれて、動脈硬化になる…というイメージは非常に分かりやすいです。
しかし、動脈硬化の直接の原因は悪玉コレステロールではなく、炎症だと考えられています。
- まず加齢による高血圧や、血液中のコレステロール・糖質の増えすぎなどによって、血管の内膜が傷つく
- 傷ついた血管の内側に、コレステロールが入り込み、酸化LDLコレステロールとなる
- 入り込んだ「異物」である酸化LDLコレステロールを駆除するために、マクロファージが食べ尽くす(=炎症)
- 異物を食べ尽くしたマクロファージは、死骸となって血管に蓄積し、血管のつまりを引き起こす
つまり、動脈硬化のきっかけは血管が傷ついてしまうこと、直接の原因はマクロファージによる炎症と言えます。
炎症を抑制する
オメガ3とオメガ6を1:1で摂る
炎症を抑制する食べ物ではオメガ3脂肪酸 が挙げられます。
前述したように、肉類を食べ過ぎやオメガ6系の油の使いすぎは、炎症が促進されてしまいます。そこで炎症を抑制するオメガ3系の油を積極的に摂るようにしましょう。
ただし、オメガ6は完全に悪者というわけではありません。炎症が起こせなくなると外敵と戦う術がなくなってしまいますから。
そこで目標としては、オメガ3とオメガ6を1:1の割り合いにすることを目安にするといいでしょう。
「1:1でいいの?」と思われたかもしれません。しかし現代人はオメガ3と6が「1:4」ぐらいの割り合いになっているので「1:1」にするのは意外と大変です。
魚を積極的に食べたり、ドレッシングにしたりしてオメガ3を多く摂るようにしてみましょう。
炒め物にはごま油の代わりにオリーブオイル
炒め物にごま油を使っている方も多いでしょうが、ごま油はオメガ6系で炎症を生みやすい油です。
かといってオメガ3系の亜麻仁油などは熱に弱いので加熱調理には向きません。
加熱調理に使うときにはオメガ9脂肪酸を使いましょう。オメガ9はアボカドオイルやオリーブオイルなどに含まれるオレイン酸が代表格です。オメガ9系は比較的熱に強いです。
では油についてまとめておきます。
- オメガ6を減らし、オメガ3を増やす(1:1を目指す)
- 加熱調理に使うときにはオメガ9が多いオリーブオイル・アボカドオイルなどを使う
朝食をなくして「プチ断食」をする
炎症を沈めるには断食をして空腹の時間を長くすることが効果的です。
研究↓では短期間の断食によって 慢性炎症の改善に効果があることが分かっています。
- 12人の健常者を対象に2日間のファスティング(=断食)を行った。
- またファスティングの前後で血液細胞の変化を調べた。
- 血液細胞の一種である「単核球(※)」の数が多い人は 、ファスティングの後に単核球の数が減少する傾向があった。
※「単核球」は炎症反応が起こることで増加するという特徴があります。 なので単核球の数によって炎症がどれだけ起こっているかの 指標となるわけです。
つまり、断食することによって炎症を抑制することができたわけです。
断食というと大変そうですが、朝食を抜くだけのプチ断食は意外と手軽に取り組めます。
1日3食ガッツリ食べるのではなく、朝食を抜いてみましょう。夕食から次の日の昼食までお腹に何も入れないことを心がけるといいでしょう。
筋肉を動かす
筋肉を動かすことで、筋肉からも炎症を抑える物質が出ます。
脂肪組織がアディポネクチンを出して全身に炎症を抑えるように働きかけていることは前述した通りです。実は筋肉も「マイオサイトカイン」という炎症を抑える物質を出しています。
運動して筋肉を動かすことによって、マイオサイトカインが活発に分泌されます。
まとめ
では、炎症についてまとめておきたいと思います。
炎症とは?
- 炎症とは「異物」に対する防御反応
- 細胞を痛めつける「慢性炎症」がヤバい
慢性炎症が起きる原因
- オメガ6脂肪酸の摂りすぎ
- 肉類の食べすぎ
- 糖質の摂りすぎ
- 内臓脂肪
- 喫煙
- 精神的なストレス・孤独
炎症は様々な病気の「黒幕」
- 認知症
- うつ病
- 動脈硬化
炎症を抑制する
- オメガ3とオメガ6を1:1で摂る
- 炒め物にはごま油の代わりにオリーブオイル
- 朝食をなくして「プチ断食」をする
- 筋肉を動かす
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