「たった55分の違い」が、成績も出席も変えました。
朝の始業時間をわずかに遅らせるだけで、高校生の睡眠時間が延び、集中力が上がり、成績まで改善する──そんな研究結果がアメリカのワシントン大学から報告されています。
学校の仕組みは、長年「大人の都合」で組まれてきた部分もあります。しかし、子どもたちの脳や体のリズム、そして多様な家庭環境に合わせた教育制度が、今こそ求められているのではないでしょうか。
本記事では、筆者自身が「もし自分が現場にいたらこんな実践をしてみたい」と考えた柔軟なアイデアをまとめています。教育委員会や現場の先生方だけでなく、教育に関わるすべての方にとって、新しい視点のヒントとなれば幸いです。
学校の始業時間は早すぎる?
始業を55分遅らせただけで生徒の成績が4.5%向上!
2018年に発表されたアメリカのワシントン大学の研究では、学校の授業時間を約一時間遅らせることで生徒の睡眠時間が増え、学業成績までアップしたことが知られています。
内容
シアトルにある高校の始業時間を午前7時50分から8時45分に遅らせたところ、生徒の睡眠時間や学業成績がどう変化するかを調べた。また、睡眠の質や量、学業成績、欠席・遅刻の傾向なども合わせて分析された。
結果
- 始業時間を遅らせたことで、学校がある日の睡眠時間が平均34分増加した。
- 起床時間が平均44分遅くなったが、就寝時間には大きな変化はなかった。
- 眠気の自覚が減り、学業成績が4.5%向上した。
- 週末の睡眠には変化が見られなかったが、平日と週末の睡眠差(社会的時差)が縮まった。
- 研究の対象となった2校のうち、一方では遅刻・欠席率に変化がなかったが、もう一方ではこれらが減少した。
- 特に、経済的に不利な生徒が多い学校で改善の効果が大きかった。
夜型になりがちな10代の体内時計
始業時間の変更により、睡眠時間が増え、眠気が軽減されました。睡眠時間の確保は日中の集中力向上に寄与し、結果的に成績も良くなったと考えられます。
「睡眠時間を増やすなら単純に早く寝ればいいじゃないか」と思われるかもしれません。
しかし、授業時間を遅らせることにより、夜型になりがちな10代の体内時計に合わせた生活リズムが可能になったことがポイントなのです。
始業が遅くなる分、就寝時刻が遅れる傾向もある
また、欠席や遅刻の減少は、生活リズムの安定や体調改善の影響と考えられます。
しかし、生徒が就寝時間を遅らせる傾向も見られたため、始業時刻の変更だけでなく、夜間のスクリーン使用制限など睡眠衛生の教育も必要です。
【実践】始業時間の改革案について考察してみよう
教育に携わるみなさんも、「生徒の朝の睡眠時間を確保するために、どんな対策ができるだろうか」と考えてみてください。以下は筆者が考えてみた始業時間の変更や、生徒の睡眠の質アップに関するアイデアです。
戦略1.始業時間を変更
親の送り迎えや交通機関への影響とその対策
- 学校併設の早朝待機室の設置:始業前に学校で自習や読書ができるスペースを用意し、親の出勤時間と合わない生徒に配慮する。
- 地域と連携した交通調整:市や交通事業者と連携し、始業時間に合わせたバスの時刻表見直しを検討(モデル校での試験的運用など)。
- 送迎支援の仕組み構築:PTAや地域コミュニティと連携して「通学同行制度」や「相乗りシェア」の運用を試験的に開始。
教師の勤務時間への影響とその対策
- 業務の時短化・ICT活用の促進:授業準備や成績処理のデジタル化を進め、放課後の業務時間を短縮。
- 時間割の工夫:午後に「自己学習・課題提出」などの時間を設け、教員はその時間を事務処理や退勤準備に活用可能とする。
- 教員のシフト制導入(試験的):特定の曜日は午前勤務・午後勤務と交代制にし、過度な長時間労働を防ぐ。
戦略2.早起きの負担を減らす柔軟性のある時間割
授業にフレックスタイム制を導入
- 選択制1限制度:「1限は任意出席」「キャリア教育・図書・自習」など、負荷の少ない内容に統一。
- 時間割の工夫:テストや集中が必要な授業を午後に配置するなど、時間割の工夫。
- 代替受講制度の導入:「1限出席不可の生徒は、7限・放課後に同内容を別クラスで受講可能」とする。
- オンライン代替授業・課題制:1限授業の内容は録画またはスライド共有し、レポートや小テストで代替可能にする。
- 週に数日だけのフレックスタイム制:月・水・金は通常、火・木は10時登校など段階的導入。
部活動の朝練の廃止・時間変更
- 朝練は原則廃止し、放課後または昼休みに移行。
- どうしても必要な場合は「希望者のみ」「週に1回だけ」などの制限を設ける。
朝学習の任意化
- 朝読書や計算練習などは「推奨参加」とし、出欠や成績に反映させない。
- 希望者は参加し、静かに自習できる環境を整える。
朝礼や出席確認の柔軟化
- 遠距離通学者には「2限から出席でも欠席扱いにしない」制度を検討。
- 通学困難日には「家庭学習報告書」の提出で登校扱いとする。
戦略3.睡眠の重要性についてキャンペーン
校内での睡眠アンケートの実施と可視化
- 生徒の睡眠時間、就寝・起床時刻、眠気などを簡易的に調査し、現状を教職員間で共有
- 生徒指導の優先事項として「睡眠の質」を取り入れる
保護者との連携で、生徒の睡眠やスマホ利用を改善
- 三者面談や通信で「睡眠と成績の関係」について共有し、就寝時間の管理をお願いする
- 夜間のスマホ利用について家庭ルールを決めてもらう
まとめ:始業時間から学校教育全体を見直す
学校の始業時間を見直すこと。それは単に「時間をずらす」だけでなく、教育のあり方そのものを問い直す行為です。
今回ご紹介した実践案の多くは、制度改革を待たずとも、地域や学校、あるいは生徒会レベルでも始められるものばかりです。もちろん、全ての案がそのまま現場に適用できるわけではないかもしれません。でも、少し視点を変えることで、現実に即した新しい「当たり前」が生まれる可能性があります。
教育に正解はありません。だからこそ、常に「子どもたちにとって何が最善か」を考え続ける姿勢が、教育を未来へと進める力になると信じています。
ぜひ、あなたの学校や地域でも「55分の差」がもたらす可能性を、自由な発想で見つめ直してみてください。
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