いじめは仲間意識と表裏一体である
「いじめはなぜ起こるのか?」の答えを言うとするならば、集団から裏切り者を排除するシステムが過剰反応するからです。
人間には集団から裏切り者を排除するシステムが備わっています。人間は社会的な動物です。ヒトが他の動物と違って牙も無ければ大きな体もない動物だったにも関わらず、文明を築き上げることができたのは、高度に発達した社会性のおかげです。
社会性を保つために仲間意識が強いというのは裏切り者を排除する機能も強いと言えます。
なぜなら裏切り者は集団生活を破壊しかねないからです。
集団生活ではみんなが自分の労力を出し合うことが不可欠です。命がけで狩りをしたり、労力を使って食材を見つけたりします。みんなが労力を出し合うことで食事という利益にもありつけるわけです。しかし、そこで働かずに怠けているのに利益だけを得る横取りする人が現れたらどうでしょうか?
当然「あの人はずるい!」「自分も働かずに利益を奪おう」とする人が増えます。するとみんなが労力を出し惜しむようになり、集団生活が機能しなくなってしまうのです。
ですから、集団のなかの裏切り者は外部の敵よりも厄介な存在なのです。
だからこそ、集団の裏切り者を排除するようにしました。裏切り者をあぶり出し相応の罰を与えるのです。裏切り者の排除を「サンクション」と言います。
いじめは肥満と同じ!いじめは快楽だから辞められない
「いじめを無くすことができるか?」というと、答えはNoです。なぜなら、人は他人をいじめることを快楽としているからです。
サンクションはもともと集団生活を営む上で欠かすことができない機能です。サンクション自体は悪いのではありません。前述したとおり、裏切り者は集団生活を破壊するからです。
サンクションは生きていくために必要不可欠だったわけです。そして動物はよくできており、必要不可欠な行動には快楽が伴うようにプログラミングされます。
例えば、食欲や性欲などです。サンクションも食欲などと同じように快楽を感じるようにプログラムされているのです。
ですから、人は他人を排除することに快楽を感じてしまいます。
いじめは肥満と同じ!「オーバーサンクション」
「だったら裏切り者である被害者が悪いのか?」と誤解されたかもしれません。
人間は食べることが必要不可欠だから、食べることに快楽を感じることができるように食欲があります。しかし、食欲もいきすぎることがありますよね。肥満な人は生きるために必要な栄養素はとれているにも関わらず食べることが止められません。
いじめもそれと同じです。サンクションの快楽を止めることができずに、必要以上に他人を排除してしまっているのです。(これを「オーバーサンクション」と言います。)
ですから、いじめはオーバーサンクションが起こった状態と言えます。つまり加害者がいじめの快楽にハマり、暴走している状態です。言わずもがな100%加害者が悪いです。
実際にいじめのターゲットになる被害者は周りの人と溶け込めず、浮いた存在である場合が多いです。しかし、「集団生活を破壊する裏切り者」と呼ぶレベルには到底及びません。
- 周りよりも内向的で気弱な人は自分たちのノリに合わないから
- 周りよりも仕事ができない人は仕事ができないのに自分たちと同じ給料をもらうのはズルいから
このような些細な理由で排除行動が過剰に働いてしまうのです。
ここまでのまとめ:いじめの原理
- いじめは集団生活を営むために裏切り者を排除するシステムが根本原因である→周りとちょっと違う人が標的になりやすい
- 裏切り者を排除することには快楽が伴うため、排除が過剰に行われる(=「いじめ」となる)→いじめられる側が悪いのではない
いじめを加速させる要因
「嫉妬」が生まれる2つの要素
いじめの根本原因は裏切り者を排除する機能の暴走だと分かりました。ではどのようにして裏切り者が決まるのでしょうか?
裏切り者が決まる要素はいろいろあると思いますが、そのなかに嫉妬も含まれています。
嫉妬が生まれるポイントは2つです。類似性と獲得可能性です。類似性とは所属する団体・年齢・活動などがどれだけ似ているかというポイントです。獲得可能性とは他人が利益を得たときに自分も得られる可能性のことです。
人間は類似性と獲得可能性が高いときに嫉妬します。つまり、自分と似たような人が自分も手に入りそうなものを持っているときに嫉妬するのです。
以前の記事で、「羽生善治には嫉妬しないのに藤井聡太には嫉妬するのはなぜ?」という心理を解説しました。
羽生善治さんは僕らと世代が違いますから類似性が得られません。将棋に費やした時間が違いますから将棋で負けても当然です。
しかし、藤井聡太さんの場合は年齢が違いですからある程度の類似性はあります。「俺だって小さい頃から将棋に熱中していれば…」という獲得可能性もないことはないので、嫉妬してしまうわけです。
いじめられない秘訣は類似性と獲得可能性をなくしてしまうことです。
類似性を無くすためには「同じ学校の学生であること」を放棄するのが一番手っ取り早いです。この点から言うと転校するとか、不登校になるとかは有効な方法なのです。
また、所属する集団を変えるのも有効です。男子にいじめられているのなら女子のなかに交じればいいし、女子にいじめられているのなら男子のなかに交じればいいです。
獲得可能性を無くすには、自虐をかまして自分を低く見せるか、圧倒的な才能を見せつけてねじ伏せるかの二択です。「大したことはないんだな」と思わせるか、「コイツには敵わない」と思わせれば嫉妬されることはなくなります。
社会的報酬への依存
思春期の脳は社会的報酬に敏感になります。社会的報酬とは仲間から認められたり、自分が目立ったりすることによる満足感のことです。
社会的報酬には脳の腹側線条体という領域が関係しています。腹側線条体は思春期で急速に発達するのです。
大勢の人から認められることが気持ちいいのは誰もが知っているとおりです。社会的報酬に依存するとその刺激が得られないときにイライラするようになります。
そこで誰かをいじめるのです。誰かをいじめることによって、自分の力をアピールすることができます。誰かを生贄にした自己アピールによって社会的報酬を得ようとするのです。
実際に、いじめは5月6月、10月11月などに多くなるそうです。この時期は体育祭や文化祭など目立ったことをして活躍することができるイベントが多いです。
こうしたイベントによって社会的報酬が得られるわけです。しかし、イベント事が終わるとその報酬はとたんにストップし、ムシャクシャしてしまうのです。
大人で例えるなら、喫煙者が禁煙を始めたときに禁断症状が出るのと同じです。
いじめがなくなるとしたら…
基本的にいじめがなくなることはないと思います。しかし、もしなくなるとしたら皆がお一人様になったときだと思います。
特定の群れをつくらず独立しており、個性を尊重する関係性をつくることができれば、いじめはなくなります。
「集団のなかに浮いたやつがいる」という構図だからいじめは生まれます。みんなが個性を持っていれば、そもそも「浮いたやつ」という概念はなくなります。
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