事実を捻じ曲げて不幸な選択に固執する「認知的不協和」とは?

決断力

知りたくないけど知っておきたい。「認知的不協和」とは?

人間は自分の努力が可愛く思えて意図しない行動をとってしまう習性があります。例えば、以下のような振る舞いに心当たりがないでしょうか。

  • 正直おもしろくないなと思う本でも、高いお金を出して買った本なら自分を騙して面白いと思い込み、目をこすりながら読んでしまう
  • 必死に受験勉強をして合格した大学で、「自分がやりたいことではなかったかもしれない…」と迷いが生じても、「せっかくここまで頑張ったから」と考えてその進路に固執する
  • 自分の幸福に繋がらない恋愛関係であっても、「ここまで彼を支えてきたから…」と考えて別れを切り出せずにいる

 

このように、自分の努力が可愛くなって冷静な判断を下せなくなる心理には誰しも心当たりがあるでしょう。実際に、1966年に発表されたカリフォルニア大学リバーサイド校の研究では、大変な労力をかけて手に入れたものなら、実際には退屈なものであっても高い評価を下しやすいことが示されています。

 

根拠となる研究
ScienceDirect
  • 被験者:63人の女子大学生(スクリーニング前)
  • 内容:非常に恥ずかしい儀式を経て討論会に参加した場合、退屈な討論会でも高い評価をするかどうかを調べた

 

介入

学生たちに性の心理学に関する特別の討論会への参加資格を与えると伝える。ただし、討論に参加するには加入儀式を受けなければならない。その際、被験者を3つのグループに分けてそれぞれの加入儀式を受けてもらった

  1. 官能小説の過激なシーンを2つ読み上げる(非常に恥ずかしい儀式)
  2. 辞書に載っている性的な単語を5つ読み上げる(そこまで恥ずかしくない儀式)
  3. 加入儀式を受けない(対照グループ)

その後、学生たちは討論会のメンバーとして迎えられ、事前に行われた3人の女子大学生による討論の録音テープが流された。しかし、録音テープは意図的に退屈な内容にしてあった(テーマは鳥の第二次性徴についてのだらだらとした討論、発言者は議題に関する下調べをしておらずグダグダ)。

テープが終わると被験者にアンケートを行い、討論やグループメンバーについての評価を行ってもらった。

 

結果
  • そこまで恥ずかしくない儀式を受けたグループと対照グループは討論については「退屈でつまらなかった」と素直に評価し、下調べをしなかった発言者に対しても「無責任だ」「予習ぐらいすればいいのに」と否定的な意見だった。
  • 非常に恥ずかしい儀式を受けたグループは高い評価を下していた。例えば、討論については「刺激的で興味深い」と評価し、発言者に関しても「予習をしなかったことを認めるなんて潔い。」「あんな正直な人と討論をしてみたい」と許す傾向が見られた。

 

考察・要約

つまり、非常に恥ずかしい思いをして手に入れたものは、実際には退屈なものであっても素晴らしいものだと評価しがちだということです。

理由は、「恥ずかしい思いをしてまで討論に参加できたのだからつまらないものであっていいはずがない」と考えるからです。討論が退屈なものだと評価してしまうと、「わざわざ頑張ったのに馬鹿を見た」と自分の愚かさを認めなければなりません。そこで自尊心を守るために、「素晴らしい討論だった」と思い込む戦略をとったのです。

 

このような心理を「認知的不協和の解消」といいます。認知的不協和とは、自分の信念と事実が食い違っているとき、信念と事実の矛盾によって生じる不快感のことです。人間は「自分は頭が良く筋が通っている人間だ」と信じたいので、自分の信念に反する事実が出てきた時に自尊心が脅かされないように、事実の解釈の方を変えてしまうのです。

認知的不協和に陥らないためには、「自分は間違いを犯すこともある」というマインドセットを持つことです。

 

 

ですので、自分が労力や時間をかけて手に入れたものに対して疑いを抱いたとき、認知的不協和の解消に陥る心理を自覚しなければなりません。例えば、自分の幸福に繋がらない恋愛関係でも別れを切り出せずにいるケース。「自分はクズなヒモ男に騙されて時間を奪われてしまった愚かな女だ」という事実を認めたくないために、「いやいや、彼は優しくて素敵な人だし、私が尽くしたくて尽くしているのだ」と事実を捻じ曲げて解釈している可能性があります。

認知的不協和の罠に陥らないためには、知識として知っておくことが最大のワクチンになります。自分が何かに固執してしまっているとき、「これは自分の脳が認知的不協和を解消しようとしてしているのではないか」と自覚することが重要です。

 

自分の心の脆い一面は知りたくないものですが、人生において本当に幸福な選択ができるように覚えておきましょう。

コメント