心トレジムでよく「科学的」って言葉が出てくるけど、「科学的」って何?
どういう基準を満たせば「科学的根拠がある」と言えるの?
相反する情報はどっちを信じればいいの?
テレビやネットの情報は何を基準に信じればいいの?
今回は、「科学的」とはどういうことかを徹底解説します。科学的な根拠を判断する能力を身につけて、正しい情報を信じられるようにしましょう。
科学的根拠とは、「正しい研究が行われているか」
情報が信頼できるかどうかは、「科学的根拠が強いか」に注目する必要があります。
「強いか」という言い方をしましたが、科学的根拠には強い弱いがあります。科学的根拠の強さは正しく実験が行われているかによって決まります。
例えばよく商品の売り文句として「ハーバード大学で効果が実証済み!」といったものを見かけますよね。こういった売り文句を見て「信頼できる!」と判断するのは早計です。
問題は「ハーバード大学のどんな研究で実証されているのか?」というところです。もしも行われた研究がめちゃくちゃ小規模なものだったりすると、いくらハーバードであろうが信頼度は低くなります。
「正しい研究が行われているか」を見極めるポイントはいくつかあります。
- その実験の被験者(効果を確かめるための協力者)は何人いるのか?少なすぎていないか
- 被験者に偏りがないか(健康状態や経済力、価値観など)
- 研究者の意図で事実がねじ曲げられていないか
- 原因と結果がハッキリしているか
(ピンと来ないと思いますが大丈夫です。これから解説します)
例えば「薬aが心臓病に効果がありますよ」ということを実証したかったとします。A大学の研究では50人の被験者で実証、B大学の研究では1万人の被験者で実証となれば、当然B大学の方が信頼度は高いです。
とにかく、「○○大学で実証!」とか、「名医が推奨!」みたいな売り文句だけに惑わされず、「ちゃんとした研究手法がとられているのかな?」と疑うことが大事ってことです。
では、具体的にどんな研究手法だと信頼できるのか見ていきましょう。
様々な研究手法
- メタアナリシス・システマティックレビュー
- ランダム化比較実験(RCT)
- 観察研究
- 専門家の意見
専門家の意見:信頼度★
まず一番信頼度が低い情報は、専門家の意見のみで主張されている情報です。
よくネットの広告とかでも、「医者の妻『○○で簡単に痩せます』」みたいなのがありますよね。(笑)
ついつい気になってクリックしてしまいますが、注意すべきです。なぜなら、個人的な体験談だけで主張されている場合があるからです。
研究で実証されたものではなく、専門家が個人的に言っている意見は疑ってかかった方が賢明です。
人間は権威に弱い部分がありますが、専門家だからと言って正しいことを言っているとは限らないのです。
当然有名人が書いた自己啓発本や、東大生が書いた勉強ノウハウ本も信頼に値しません。参考にする程度にとどめるのが賢明です。
観察研究:信頼度★★
次に観察研究です。
観察研究とは、被験者に積極的な介入をせずありのままに起こる出来事を観察記録し、その結果を分析するものです。
専門家が勝手に言っている意見よりはマシですが、まだまだ信頼には値しません。
有名な観察研究「朝ごはんを食べる子ほど学力も高い」は間違いだった!?
ピンとこないと思うので具体例を出しましょう。
例えば、「朝ごはんを食べている子どもほど学力や集中力が高い」という研究を耳にしたことがあると思います。しかし「朝ごはんで学力がアップ」は観察研究で行われたもので、信頼度が疑われています。
朝ごはんの研究の手法としては、
- 朝ごはんを食べている人と食べていない人を調べる
- 学力などを調べる
- その結果、朝ごはんを食べている人ほど学力も高い傾向を発見する
みたいな感じで行われています。
ただありのままを観察しているので観察研究と言えます。一見正しいように見えますが、この手法では「因果関係」を証明することになっていません。
さて、ここで「因果関係」と「相関関係」という言葉について知っておきましょう。
- 因果関係とは、原因と結果の関係性
- 相関関係とは、たまたま同時に起こっているもの
- 「朝ごはん(原因)を食べることによって、学力(結果)も高くなる」(因果関係)
- 「朝ごはんを食べてる人は、学力も高い」(相関関係)
は別物です。
相関関係は信頼度が低いです。なぜなら、学力が上がっている理由が朝ごはんによるものだとは限らないからです。理由は他にあるのかもしれません。例えば以下のような場合です。
- 「お金持ちな家庭ほど朝ごはんにお金をかけることができるし、子どもの教育にもお金をかけることができる」というだけかもしれません。その場合学力を高めるのは、朝ごはんではなく経済力です。
- または「親が性格的に計画的な家庭ほど、早起きして朝ごはんを食べるし、子どもの教育についてもよく計画している」というだけかもしれません。この場合、学力を高めているのは朝ごはんではなく、親の几帳面な性格です。
アイスを食べると殺人が増える!?
相関関係はたまたま同時に起こっていることを結びつけているだけと言えます。
有名な例えに「アイスの売り上げが増えると、殺人事件の発生件数も増す」というものがあります。
アイスを食べると人は殺人を起こしてしまうのでしょうか?そんなわけありません。
「アイスの売り上げが増えると、殺人事件の発生件数も増す」理由は、夏の暑さです。暑いとアイスはよく売れるようになりますし、気温が上がると外出する人が多くなるので町に人々が溢れ殺人に巻き込まれる確率も増えると考えられています。
観察研究だけで知ることができるのは、あくまで相関関係だけなのです。
つまり、「朝ごはんを食べている人ほど、学力も高い。だから朝ごはんを食べよう!」と言っているのは、「アイスを食べたら殺人が増えるから、アイスを食べないようにしよう」と言っているのと同じようなものなのです。
観察研究を見破れるようになれば、情報をより賢く精査することができますね。
ランダム化比較実験(RCT):信頼度★★★
信頼度が高いと判断できるのが、ランダム化比較実験(RCT)です。
相関関係しか分からない観察研究に対して、RCTでは因果関係を有無を導きだすことができます。
積極的な介入で因果関係を明らかにする
例えば先ほどの「朝ごはんを食べるによって学力や集中力を高めるかどうか」ということを知りたい場合、以下のような手法で初めて証明できます。
- 子どもたちを2つのグループに分ける(グループAとグループBとする)
- グループAには2週間の間毎日朝ごはんを食べてもらい、グループBには食べないでもらう
- 2週間の前と後でそれぞれ小テストを行う
- 小テストの結果、グループAの方がグループBよりも成績の伸び率が高ければ、「朝ごはんは学力を高める」と言える
ランダム化比較実験では、介入を施すグループ(処置群)と、介入しないグループ(対照群)に分けられて「比較」されます。
上記の例では、
- 朝ごはんを食べてもらうグループが処置群
- 朝ごはんを食べないでもらうグループが対照群
となっています。対照群に比べて、処置群の方だけ効果が出れば、「効果あり!」と結論付けることができます。「朝ごはんを食べているかどうか」だけが違っていて、他の条件は同じになっているので因果関係がハッキリ示されるわけです。
被験者の偏りをなくす
RCTのもう1つ重要な要素が、「ランダム化」という部分です。
ランダム化とは被験者をランダムに選ぶことです。
もう一度朝ごはんの例を挙げると、最初に子どもたちに協力してもらうとき、仮にグループAの方にもともと知能が高い子どもが偏っていたらどうでしょうか。
そうすると、学力が伸びたとしても「朝ごはんを食べたから」というよりも、もともと「知能が高いからじゃない?」ということになります。すると「朝ごはんを食べると学力が高まる」という理屈が怪しくなります。
ですから、被験者をランダムに選んで分けることが大事です。
また、もともと集められた被験者の子どもたちが全員名門学校の子どもだったらどうでしょうか。
全員が名門学校の子どもたちを2つに分けて比較し、「朝ごはんを食べたグループだけが学力が上がった」という結論が出ても、「もともと学力が高い子どもだけに起こることで、平均レベルの子どもにも同じことが起きるとは言えないんじゃない?」という指摘もされそうです。
ですから、「もともとの学力レベルに関係せず、朝ごはんを食べれば学力が高まるんだぞ」ということを言いたい場合は、被験者となる子どもたちも様々な学校から集め、ランダムに振り分けることが重要です。
総合すると、様々な被験者をランダムに集めた上でランダムに分けるというのがポイントです。
その点が徹底されているランダム化比較実験と呼べるものは、信頼性が高いと言えるのです。
「二重盲検法」で実験者の意図を消す
ちなみになかでも信頼度が高いのは、ランダム化比較試験 と「二重盲検法」 の組み合わせです。
二重盲検法では、実験者にも 介入が分からなくなるようにする二重盲検で実験します。
二重盲検にするのは、実験者が結果を歪めることを防ぐためです。
実験者も人間ですから「効果が現れてほしい!」と意図を持っていることもあります。すると介入をした方のグループを贔屓して判断する可能性があるのです。(例えばそんなに効果が出てないのに多めに見積もってしまったりとか。)
その点で、二重盲検は信頼できます。ランダム化比較試験 と二重盲検法 の組み合わせは単体の研究では、信頼度が最も高い研究手法なのです。
メタアナリシス:信頼度★★★★
エビデンスレベルが一番高い研究手法は、「メタアナリシス」や「システマティックレビュー」です。何だかカッコいい名前ですね。
メタアナリシスやシステマティックレビューとは、過去に報告された研究結果をまとめて解析したり、レビューしたものです。
特に、元々エビデンスレベルが高い「ランダム化比較試験」のみを集めておこなったメタアナリシスは最強の研究手法と言えます。
メタアナリシスでは「出版バイアス」を排除できるのが強みです。
出版バイアスとは、ネガティブな研究結果は、ポジティブな研究結果よりも公表されにくいという偏りです。例えば、「この手法には効果がありませんでした」という結果は、「効果アリ!」という結果よりも公表されにくいですし、印象にも残りにくいですよね。
メタアナリシスでは出版バイアスが起きないように、ポジティブな結果もネガティブな結果もまとめて解析します。
例えば、A大学の研究で「『薬a』には効果があるぞ」という結果が出たとしましょう。
しかし、B大学の研究では「薬aは効果はないよ」という結果になったとします。C大学でも、D大学でも「薬aには効果がない」という結果になりました。
仮にA大学の研究だけを信じれば「薬aは効果がある」と誤って判断してしまいます。そんなときに、これらの研究を総合して「薬aには効果がない」と正しく結論付けるのがメタアナリシスです。
人間の体や心理は複雑です。正しい手法で行われた研究であっても、効果が出たり出なかったりするときはあります。だからこそ複数の研究を総合して判断するのが大事なのです。
メタアナリシスは、正しい形で行われた研究の結果を偏りなく判断するので最も信頼できる研究となるのです。
超有名な研究「マシュマロテスト」は間違いだった!?
さて、「研究の信頼度を見抜く術を身につけておくと便利だよ」ということが分かっていただけたでしょうか?
「科学的な根拠があるのか?あるとしたら根拠として強いのか?」という目を持っていると、人よりも正確に情報を判断できます。
1つ僕が個人的に「勉強になったなぁ」と思ったケースを紹介します。
超有名大学の研究でも間違いはある
心理学の有名な実験にスタンフォード大学で実施された「マシュマロテスト」という実験があります。
マシュマロテストは 「我慢強さが成功の鍵になるんだぞ」ということを示す実験です。ざっくりとした研究手法は以下の通りです。
- 被験者として4歳の子どもたちに協力してもらう
- 子どもを実験室に入れて、目の前にマシュマロを1つ置く
- 実験者の大人が「今から私が戻ってくるまで、マシュマロを食べるのを我慢することができたら、もう1つマシュマロをあげるよ」と言う
- 実験者が部屋から出ていったあとで、子どもたちの様子を密かに観察。子どもたちがマシュマロを我慢できるかどうかを調べた
- その後の追跡調査で、実験に参加した子どもたちの学校での学力、会社での地位などを調べた
- その結果、マシュマロをより長く我慢できた子どもたちほど、学業成績が高く、肥満率が低いことが分かった。つまり4歳の時点での我慢する力が、将来のあらゆる成功を左右している!
という内容です。「4歳の時点で成功が決まる!」なんて言われたらなかなか衝撃的ですね。
マシュマロテストの研究は超有名で、多くの育児書で引用されています。
そんななか、最近発表された研究では「マシュマロテストってやっぱり間違いじゃね?」と言われています。
2018年の論文によって「マシュマロテストは非常に限定的で信頼性に欠ける」と指摘されています 。
衝撃!では、マシュマロテストのどこが間違いだったのでしょうか?
被験者の子どもたちの偏りが問題視
マシュマロ実験の被験者となった子どもたちは、スタンフォード大学に併設されている保育園の子ども達です。
スタンフォード大学はアメリカで入学するのが最も難しい大学と言われ、 日本のレベルに当てはめるとおよそを偏差値80以上とも言われています。
そんなスタンフォード大学に併設されている幼稚園ですから、通っている子どもの親はスタンフォード大学で働いている先生だったり、スタンフォード大学に進学している学生だったりするわけです。アメリカ最高レベルの大学を卒業している親なら経済的にも社会的に恵まれている特殊な環境な人たちと言えるのです。
つまり、実験に参加した子どもたちは、超名門の家庭で生まれている子どもたちだらけです。これはランダム化比較実験にあってはならない「被験者の偏り」に他なりません。
そして、マシュマロを我慢するという課題は、家庭環境が大きく左右します。
というのも、貧しい家庭の子供は裕福な家庭の子供に比べて、「食べ物を我慢することが大事」という考え方が薄いです。むしろ貧しい家庭の子供は「今日食べ物があっても明日にはないかもしれない」という考え方が強く、食べ物を我慢するという考え方が親からも教えられていない傾向にあります。
つまり、マシュマロを我慢するかどうかは純粋な我慢強さだけではなく、裕福なのか貧しいかどうかなど家庭環境の違いが混在してしまったのです。
2018年に発表された研究では、人種民族性親の学歴など多種多様な4歳児を対象に、同じようにマシュマロテストを行っています。その結果スタンフォードで行われたマシュマロテストの実験結果を再現することはできなかったとのこと。ですので、実際には「4歳のときの我慢強さが人生を決める」というのは盛りすぎだったみたいです。
「有名な大学の研究だから信頼できるだろう」は大間違いなのですね。
神経質にならずにとりあえず試してみることも大事
「研究の規模や、被験者の選び方、比較の仕方などが重要なのは分かったけど、そんなのどうやって見ればいいの?」って感じですよね。
親切なサイトや、本では研究の内容が引用されているので、ある程度判断できますが、一般人が論文を読んで情報を解釈するのはハードルが高いでしょう。
ですので、「あまり神経質になりすぎず実践してみる」ということも時には大事です。
例えば、「自然のなかを歩くことでストレス解消効果がある」みたいな研究があります。研究手法がよく分からない場合は、「信頼度が高いのかな?」とウジウジ考えるよりも、とりあえずやってみるのも手です。自然のなかに出掛ける習慣をしらばらく実践してみて、「気分がスッキリするな」と思ったら続けていけばいいのです。
逆に信頼性をキッチリと判断できるまで試さない方がいいものもあります。例えば「このサプリメントによって病気が予防できます」とか、「脳の特定の場所を電気刺激することによって知能が高まる」といったものです。
サプリメントのような自分の体のなかに入れるものや、高価なものはキチンと信頼できるものを選ぶようにしましょう。
つまり、この記事の全体のまとめはこんな感じです。
- 「効果実証済み!」という宣伝文句に飛びつかない。科学的根拠はあるか・ないかではなく、「強いか・弱いか」で判断する癖をつけよう
- 科学的根拠が強いと言えるのは、「ランダム化比較実験」。観察研究や専門家の意見は気をつけよう
- 気軽に試せるものは、どんどん実践していこう
- 気軽に試せないものは、しっかりと信頼性を見極めよう
【今日のクエスト】情報には「信頼できる研究なの?」と疑う癖をつけよう
【獲得経験値】
コメント