「サードパーソンチョイス」で推定の正確さが19%向上!
決断を下すときには、自分の視点だけで考えず第三者の視点を取り入れてみることが重要です。なぜなら、人間の脳は「誰かに見られている」とイメージするだけで、理解力や判断力が向上するからです。
例えば、自分が設定した習慣をサボろうとしたとき、誰かに見られているという感覚があれば、「意識が低い人間だと思われたくない」と考え直し、習慣に取り組むことができるでしょう。他にも、道徳的に間違った選択をしてしまいそうなとき、「自分の母親が見ていたらどう考えるだろうか」と想像することで過ちを犯さずに済むでしょう。
このように、第三者の視点を取り入れることは、人間の脳を冷静にさせるのにとても強力な効果を持ちます。そこで、何かを判断するときには「サードパーソンチョイス」というテクニックを使ってみましょう。
サードパーソンチョイスとは、大事な選択をする時に第三者の視点を取り入れてみる方法です。具体的には、「この選択を自分ではなく誰かがするとしたら?」と想像することで合理的な判断ができるようになります。
実際に、2011年のエルサレム大学の研究によると、食品のカロリーをあてずっぽうで推定するとき、他人視点で考えたほうがより正確な推定をすることができると示されています。
- 被験者:大学生92人(スクリーニングなし)
- 内容:被験者に対して食べ物の食品のカロリーを推定する課題を行ってもらった。その際、他人視点で考えることによってどれだけ正確な判断ができるかどうかを試した
介入
被験者に判断力を試す20項目の質問※を行った。その際、被験者をランダムに2つのグループに分けて比較。
- 自分の視点で考えるグループ
- 他人の視点で考えるグループ:「他の被験者が同じ質問をされた場合、どのように推定すると思うか?」という視点で推定してもらう
なお、ここで行われた質問は食べ物のカロリーの値を当てるというものでした。例えば、「茹でたパスタ一杯のカロリー値は?」「プレーンヨーグルト一カップのカロリー値は?」といった感じです。
介入は具体的に以下のような手順で行われました。
- それぞれの質問において、被験者はまず自分の最初の推定を入力する。
- 最初の推定を入力した後、アドバイスとして五つの推定例が表示される。五つの推定例は、過去の調査で集められた他の被験者による推定。それぞれの項目について100個用意されており、その中からランダムに五つ表示された。
- 推定例を確認した後、被験者は再度考え直して最終的な推定をすることができる
ここでのポイントは推定例として表示される五つのデータです。自分視点で考える人たちも他人視点で考える人たちも同じように他の人による推定のデータを見てもらいました。
研究者の意図としては、「いかに自分の最初の推定に固執せず他人による推定を取り入れるか」を見たかったわけです。
その後、それぞれの被験者がどのように決断を下したかという決断のスタイルと、質問への推定の正確さを分析してみた。
結果
それぞれの被験者の決断のスタイルには以下の特徴が見られた。
- 自分視点で考えた人たちは自己中心性バイアスに囚われやすく、他人視点で考えた人たちと比べ33.5%増加していた(自分視点で考えた人は50.3%が最初の推定から変えなかったのに対して、他人視点で考えた人で変えなかったのは16.8%だけであった)
- 他人視点で考えた人の方が、最初の推定からアドバイス後の推定でより柔軟に数値を変えていた(最初の推定の数値とアドバイス後の推定の数値の差の平均は、自分視点が30.1kcalに対して他人視点で60.3kcal)
- アドバイスを含むすべての推定をより公平に判断していた(自分の推定とアドバイスの推定を合わせた六つのアドバイスの平均と、最終推定の差の平均は、自分視点が59.2kcalに対し他人視点で41.5kcalだった)
実際の正答率について以下の傾向が見られた。
- 自分視点で考えたグループも他人視点で考えたグループも、最初の推定よりもアドバイス後の最終推定の方がより正確だった
- 他人視点で考えてグループの方が最終推定でより正確な推定ができていた(最終推定と正解のカロリー数値の誤差は、自分視点で考えた人は77.5kcal他人視点で考えた場合62.8kcalであり、自分視点に比べて19%誤差が小さくなっていた)
考察
つまり、「他人だったらどう推定するか?」と考えることによってより合理的な決断ができるということです。具体的には、「自分が正しいだろう」という無意識のエゴにとらわれにくく、柔軟に自分の推定を変えることができます。
理由としては、自分の視点で考えてしまうと「自己中心性バイアス」にとらわれてしまうからです。
自己中心性バイアスとは、自分の考えが基準となり他人の視点や意見を過小評価してしまう認知バイアスのことです。そもそも自己中心性バイアスは、「自分の尊厳を守りたい」という意識が働くことによって生じます。例えば、「自分の最初の推定が間違いだと認めたくない」という心理から、他人の推定をあまり重視せず自分の最初の考えに固執してしまうのです。「ほかの人ならどう考えるか」という他人視点で考えることによって自分が間違いを犯すかもしれないと言う考え方から脱出することができます。
そして、実際に他人視点で考えるほうが、より正確な推定ができていました。また、様々なアドバイスを加味して考えることに価値があるようです。
ですので、より多くのアドバイスを参照した上で「他の人ならどのように判断するだろうか?」と考えるのが一番効果的と言えます。
△自分視点:「自分ならきっと10か月でできるだろう」
○アドバイスを集めた上で他人視点:合格者が受験に向けての勉強時間をどれぐらい取ったかをインターネットで検索してみる。情報を集めた上で、「友達のA君なら受験勉強をするのにどれぐらいの時間をかけるべきだろうか」と推定する
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