有酸素運動で数学の成績がアップする!?
2015年のイリノイ大学の研究によると、有酸素運動は子どもの脳の成長を助け、数学の成績を高めることが示唆されています。
- 被験者:9~10歳の子ども48人(スクリーニング後)
- 内容:脳を調べ、有酸素運動と皮質の厚さがどのように学力と関わっているか調べた
介入
被験者の子どもに関して、以下の項目を計測。
- 脳の皮質の厚み:MRIスキャナーによって観測
- 体力:最大酸素摂取量を計測し、有酸素運動のレベルを計測。体力の高い24人と、低い24人に仕分けた
- 学力:「WRAT-3」という読み・スペリング・数学の能力を測るテストを実施
計測した結果をもとに、統計学的分析によって以下の項目の関係性を分析。
- 体力の高さと脳の皮質の厚みの関係性
- 学力のスコアと体力の高さの関係性
- 皮質の厚みと学力のスコアの関係性
結果
体力が低い子どもと比べて、体力が高い子どもは以下の傾向があった。
皮質の厚みと学力のスコアの関係性については以下のことが分かりました。
- 数学の成績が高いほど、前頭前皮質上側と側頭葉の上側において皮質の厚みが減少していた。
- ただし、読みとスペリングに関しては有意な関連性はなかった
考察
灰白質の厚みが減少しているという言い方は注意が必要です。「厚みが減少している」というと脳が劣化しているイメージを持ってしまうかもしれませんが、実際には違います。
実際には、灰白質が減ることによってより脳の最適化が進むと言えるのです。基礎知識として、脳に関するワードを押さえておきましょう。
- 灰白質(gray matter)とは、脳と脊髄からなる中枢神経系組織の中で、ニューロンの細胞体が集まる領域のことです。具体的には、灰白質はニューロンやニューロンの樹状突起で構成されています。
- 白質(white matter)とは、ニューロンから出ている軸索がミエリン鞘で包まれている白っぽい部分です。白質は伝導を司っています。
灰白質が減っていることは、「刈り込み」によって灰白質が取り除かれて脳が効率的に作り替えられていることを示します。
刈り込みとは、脳の発達において過剰に形成されたニューロンを必要に応じて除去・強化していく一連の工程のことです。
まず、11歳から12歳頃までは灰白質がどんどん増えていき、脳の皮質が厚くなっていきます。なぜなら、女の子では11歳頃、男の子では12歳頃までニューロンが増え、ニューロン同士の連結が増えていくからです。特に前頭前野の灰白質は11歳から12歳で最高潮になります。
それ以降の年齢では刈り込みと「髄鞘形成」が進んでいきます。なぜなら、ニューロンが増えてたくさんのルートができていると複雑になって効率が悪いからです。
- 刈り込みとは、ほとんど使われてないルートを閉鎖することです。
- 髄鞘形成とは、軸索の部分をミエリン鞘という脂肪が包み込むことです。ミエリン鞘が軸索を包み込むことによって電気信号がより高速で伝達されるようになります。
たとえるなら、刈り込みと髄鞘形成は大規模な脳の工事です。使われていないルートを削除して、使われているルートを高速道路に建設し直すといったイメージです。こうして刈り込みが進むことによって、12歳以降はだんだんと灰白質が減り、脳が効率的に動くように変化していきます。
つまり、有酸素運動によって灰白質が効率的に整理され、脳が効率的に動くようになると言えます。そして、脳が効率的に動くことによって数学的能力が上がるのだと考えられます。特に効率化が進んでいるそれぞれの脳の領域について見て行きましょう。
なので、子どもや学生の場合は外で遊ぶだけでも数学の能力が高まる見込みがあると言えます。
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