いじめ指標が35%改善! 誤解された「空気」に注目したいじめ対策

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今回はいじめを減らしたい教師や親に向けた内容です。
  • 「いじめを減らすには道徳教育や厳罰が必要だ」と思いがち。
  • 「いじめを減らすために即効性があり、コストも低い方法はないだろうか」と悩んでいる。
  • 生徒の間で「いじめがカッコいいことだ」という文化が根付いている気がする。
  • 大人たちが「いじめは通過儀礼のようなものだ」と楽観している。

実は、いじめに対するみんなの考え方を浸透させるだけでも充分に効果があります。

 

いじめを傍観するのは、「周りは何とも思ってないんだろうな…」と誤認しているから

多くの生徒は、いじめについて周りの子がどう思っているのかを誤解しています。具体的には、いじめの場面を目撃したときに、「自分は嫌な気持ちになるけど、周りの人は特に何も思わないのだろうな」と誤った認識を持ってしまうのです。
「周りの人はいじめを黙認している」と思い込むからこそ、自分自身も傍観してしまいます。たとえるなら、災害で避難しなければならないときに「周りの人が避難していないから問題ないのだろう」と考えて自分も避難しないことと構造は似ています。
 
 
そうであれば、いじめを改善するためにやるべきことはシンプルです。「いじめは許されないことだと多くの人が思っている」という正しい認識を子どもたちに持ってもらえばいいのです。
 

 

2011年のホバート・アンド・ウィリアム・スミス大学などの研究者たちが発表した論文によると、いじめに対して他の生徒がどう思っているかを示すだけでいじめを抑制できることが示されています。

https://www.researchgate.net/publication/254095690_Using_social_norms_to_reduce_bullying_A_research_intervention_among_adolescents_in_five_middle_schools

 

内容

ニュージャージー州内の公立中学校高校の6~8年生を対象( 11~14歳)を対象。以下のいじめ指標の項目に回答してもらった。

  • いじめ加害:いじめ行為をどの程度行ったか。
    • また、いじめ加害についてほかの生徒がどの程度行っていると思うか。
  • いじめ被害:いじめ行為が自分自身にどの程度起きたか。
    • また、いじめ被害についてほかの生徒にどの程度起きたと思うか。
  • いじめに対する肯定的態度:いじめを許してもいいと考えている度合い。
    • また、いじめに対してほかの生徒がどう考えていると思うか。
  • いじめの報告:自分やほかの誰かが学校でいじめを受けている場合、生徒は誰に伝えるべきだと思うか。
    • また、ほかの生徒はどう答えると思うか。

各学校の生徒を対象にしたこれらのいじめ指標の調査の結果を踏まえて、ポスターを制作。実際のいじめに対する調査結果に基づくいじめについての他の生徒の考え方を掲示した。

 

結果

介入前の調査では、生徒は以下のように、他の生徒がいじめについて考えていることを誤解していた。

  • 実際のいじめ指標と比べて、他の生徒がどうかの指標は3~4倍高く見積もられていた
    • 具体的には、いじめ被害は実際の約2倍、いじめの肯定的態度は実際の約2倍高く見積もられていた。
    • 考察:つまり、多くの生徒は「いじめはよく起こることだし、他の生徒はいじめに対してそこまで問題だとは捉えていないだろう」と勘違いしていたのです。
  • 「いじめ加害が多く起きている」と思うほど、いじめ加害行動をとる傾向があった
  • 「みんなはいじめを許す態度をとっている」と考えるほど、自分自身もいじめを許す態度を持つ傾向があった

 

ポスターによる介入の結果、以下のような変化がみられた。
  • いじめ加害や、被害、いじめに対する肯定的な態度について、「他の生徒がどう思うか」の指標が全体的に低下していた
    • 考察:つまり、「いじめは一般的に行われているものだ」という誤った認識が薄れたのです。
  •  実際に、いじめ加害や被害経験、いじめに対する肯定的な態度も減少していた
  • 学校や家庭の大人にいじめを報告することへの支持するようになった
    • 考察:つまり、従来は「チクリ」と考えられる大人への報告も頻繁に起きるように改善されました。

 

学校ごとの変化を見てみると以下の傾向が見られた。

  •  特に、ある学校ではいじめ指標全体がポジティブな方向に17~35%変化していた
    • 考察:つまり、いじめの加害や被害は減り、肯定的な態度が少なくなり、大人への報告の支持が増えたということです。
  • また、いじめに関するポスターをよく見るほどいじめに関する指標の変化は大きくなっていた
    • いじめ指標の変化が大きかった学校では、ポスターを見ている生徒が多かった( 72%の生徒が「複数回見た」と回答)。
    • 逆に、いじめに関するいじめ指標の変化が小さかった学校では、ポスターを見ている生徒が少なかった( 52%の生徒が「複数回見た」と回答)。
  • 実際に、どれぐらいポスターを見たかという頻度と、いじめ指標の変化の度合いを比べたところ、ポスターを見る頻度が多いほどいじめ指標も大きく変化していた
 
考察
つまり、いじめを予防するには「多くの人はいじめに対して不安や怒り、嫌悪感を感じているぞ」という正しいメッセージを送ることによって、傍観者の行動を変え、いじめが起きにくい環境にすることができます。
実際に研究で用いられたポスターの内容を見て行きましょう。
 
実際に張られたポスターの内容
  • 「◯◯中学校の生徒のほとんど(10人中9人)は、自分と異なる生徒に対しても常に友好的であるべきだと考えています。」
  • 「◯◯中学校の生徒の95%は、意地悪なからかいをしたり、他人を傷つける呼び名で呼んだり、意地悪な話やうわさを広めたりすべきではないと言っています。」
  • 「◯◯中学校の生徒の94%は、他の生徒を突く、蹴る、殴る、足を引っかける、髪を引っ張るべきではないと考えています。」
  • 「◯◯中学校の生徒の10人中9人は、実際に殴らなくても、他の生徒を殴ると脅すべきではないことに同意しています。」
  • 「◯◯中学校の生徒の多く(4人中3人)は、誰かを嫌な気持ちにさせるために集団から排除することはしていません。」
  • 「◯◯中学校の生徒の多く(10人中9人)は、他人の持ち物を取ったり壊したりしていません。」
  • 「◯◯中学校の生徒の多く(10人中8人)は、自分や他の誰かが学校でいじめを受けている場合、教師やカウンセラーに伝えるべきだと考えています。」
  • 「◯◯校の生徒の94%は、他の生徒を助け、尊重することが奨励されていると答えています。」
  • 「◯◯校の生徒の多く(5人中4人)は、他の生徒について意地悪なうわさや話を広めていません。」
  • 「◯◯校の生徒の3人中2人は、自分や他の誰かがいじめを受けている場合、親や他の大人の親族に伝えるべきだと考えています。」
  • 「◯◯校の生徒の10人中7人は、押す、突く、蹴る、髪を引っ張る、足を引っかけるといった行為に一切関与していません。」

また、ポスターの画像ではネガティブなイメージを抱かせるいじめ行動は描かれていませんでした。例えば、生徒が他の生徒に対して暴力を振るっている様子などを描いた画像を使うのではなく、楽しそうに笑って交流している場面などの画像を用いたのです。

 

「いじめは普通のことではない」という単純なメッセージを浸透させる

ポスターでは、事実に基づいて「いじめは頻繁に起きるものではないし、いじめが起きるのは自然ではない」という単純なメッセージを伝えているのです。

逆に言えば、「いじめなんてよく起こっているし、みんなは何とも思っていないだろう」と考える生徒が多いほど、実際いじめが増えてしまいます。というのも、人間は周りの意見に影響されやすく、特に思春期の学生では周りの生徒の意見に同調しやすい傾向があるからでしょう。
 
残念なことに、「学校でいじめが起きるのが自然だし、通過儀礼のようなものだ」と考える人もいます。しかし、いじめは起きて当たり前という考え方を持っていると、子どもたちに対して「いじめをしても許される」というメッセージを伝えているようなものなのです。

 

まとめ

  • 多くの生徒は、「いじめはよく起きていて、周囲もあまり問題視していない」という誤った認識を持っている。
  • この誤認が、いじめの傍観や加害行動、いじめを許す態度を強めてしまう。
  • 実際のデータに基づき「多くの生徒はいじめを望んでいない」と伝えるだけで、いじめは減少する。

いじめを減らすために必要なのは、厳罰や説教だけではありません。

「いじめは普通ではない」「多くの人が嫌だと感じている」という正しい認識を共有することで、子どもたちの行動は変わります。低コストで実行でき、学校全体の空気を変えられる有効なアプローチとして、みんなが考えていることの共有は大きな可能性を持っています。

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