誰もが好きなことを仕事にすることに憧れを抱いています。しかし、好きなことを仕事にするという考え方には危険性もあります。なぜなら、仕事をしてみて好きではないと思ったとき、「自分にはもっとあった仕事があるかもしれない…」と迷う原因になるからです。
実際には仕事を続けていくことが仕事の楽しさにつながるケースも多いのです。
「仕事は楽しいから頑張る」ではなく「頑張った分楽しくなる」
従来考えられているように、「仕事への情熱が仕事のモチベーションになる」という考え方は実は逆かもしれないのです。
2014年にドイツのロイファナ大学が行った研究では、仕事に注いだ労力が多いほど仕事への情熱は増えると示されています。
- 被験者:平均年齢36歳の54人の起業家(スクリーニング)
- 内容:多数の起業家にアンケートを行ない、仕事に対してどれぐらいの労力を費やしているかと、仕事に対してどれだけワクワクしているかを調べた
方法
8週間に渡り、週に1回の頻度で被験者にメールを送り、起業に対する努力と情熱の度合いをオンラインでのアンケートで回答してもらった。
- 起業に対する労力:「すぐに要求されるタスクにどれぐらいの労力を費やしましたか?」「すぐに要求される以上の労力をどれだけ費やしましたか?」という二つの質問で計測
- 起業に対する情熱:「製品やサービスに対する新しいアイデアを探すことは楽しい」「新しい会社を創るすることはワクワクする」という二つの質問で計測
結果
- 1週間前の起業への労力が多いほど、次の週の起業への情熱も高くなっていた。
- 過去に注いできた労力が多くなればなるほど、現時点での情熱の量も増加した。
- なお起業への情熱が高いほど、起業の労力も増えるということは示されなかった。
要約・考察
つまり、情熱があるから労力を注ぐのではなく、労力を注ぐことによって仕事への情熱が育っていく傾向が見られたのです。
確かに、仕事以外の面でも時間をかけることによって愛着や情熱が芽生えてくるということはよくありますよね。例えば、楽器を練習し始めたときには、最初はなかなか弾けないので、いきなり好きになることはありません。しかし、練習を重ねてだんだんと上達し、弾ける楽曲が増えることで好きになってくるのです。
仕事においても、最初から自分の仕事を天職として捉えている人は実は少ないのかもしれません。目指すべきは、「好き」という基準で仕事を選ぶのではなく、「なんとなくやっていたら好きになった」と言う形です。
逆に言えば、「自分はこの仕事を好きではないのかもしれない…」と思った段階で転職してしまうのはもったいないです。なぜなら、仕事の面白さを理解できない段階で辞めてしまっては、いつまでも実現できない「好き」を求めて、転職を繰り返すことになってしまいます。
【実践】「転職したい…」と思ったら、あと半年待てないか考えよう
ステップ1:あと半年だけ待ってみる
転職したいと思ったときにはあと半年待ってみるといいです。
なぜなら、今の状況がたまたま悪いだけかもしれないからです。これを「平均の回帰」といいます。平均への回帰とは、特別に良かった、もしくは悪かった結果の後は平均値に近づくという統計的な現象です。例えば、「成績が高い生徒を褒めると自惚れて成績が下がる」という現象があります。実際には褒めるかどうかは関係無く、単に運良く成績が良かった期間の後に、成績が平均に落ち着いただけと考えられるのです。
仕事においても、「この職場は最悪だ…。転職したい」と思うタイミングはたまたま運が悪い期間なのかもしれません。運が悪い期間は決断力も低くなっているので、転職しようとしてもいい判断をすることができず失敗してしまいます。
半年ほど時間をおいて、最悪の期間を乗り越えて見てから判断しても遅くはないでしょう。
ステップ2:やりたい仕事のためのやりたくない仕事なら頑張ってみる
例えば、ITエンジニアになりたくてIT企業に入ったとしましょう。しかし、最初の研修期間は営業の仕事を任されているというケース。「自分がやりたかったことは違う!」と諦めるのは簡単です。しかし、ここで考えるべきは営業の仕事がITエンジニアとしての仕事に役立つのではないかという点です。
ITエンジニアはアプリやシステムを作る仕事なので一見営業とは違うように見えます。しかし、営業もITエンジニアも人の話を引き出すという点は同じです。というのも、ITエンジニアは発注してきたクライアントからどのようなシステムを求めているのかという話を聞くことが重要だからです。相手のニーズに合わせてプログラミングを行わないと、希望を満たすシステムを作ることはできません。ですので、営業の仕事を任されている期間も、「将来的に必要になる傾聴力や共感力を鍛える練習なのだ」と考えることもできます。
なので、今振られている仕事がやりたくない仕事であっても、「今は先輩たちの仕事ぶりを観察しながら、下地となる能力を鍛える段階なのだ」という心持ちで取り組んでみるといいでしょう。
ステップ3:見えないメリットまで考慮しよう
転職する際には今の職場で享受しているメリットもちゃんと考慮するべきです。例えば、社会的な信用・安定的な給与・社会的な保証といったものはあまり意識されません。また、ベンチャー企業なら自分の意見を言いやすい自由な環境、大企業なら大企業に属しているという安心感といった要素もあるでしょう。
あることが当たり前過ぎて、空気や水のように意識しないけどありがたいものは今の会社にあるはずです。ですので、転職をする時には転職先の職場が優れている点だけでなく、今の職場から失う点もう考慮しておく必要があります。
【獲得経験値】
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