「なぜかあの人と話すと、疲れる…」
そんなふうに感じたことはありませんか?
相手はいつも控えめで繊細そう。でも、なぜかこちらが気をつかってばかりで、気がつくとモヤモヤしている。もしかすると、その人は“目立たないタイプの自己中心性”を持っているのかもしれません。
これは「傷つきやすいナルシシズム(潜在型ナルシシズム)」の性質です。実際に、2013年に発表されたウェルズリー大学などの研究では、潜在型ナルシシズムの特徴として、控えめで繊細だけど実は「自分は特別」という感覚を持っていて、否定されると強い怒りを感じるといったことが挙げられています。
潜在型ナルシシズムは、よく観察すれば言葉の選び方や態度、反応の仕方にそのサインがにじみ出ています。
この記事では、潜在型ナルシシズムがどんな場面で“本性”をちらりと見せるのかを、実際の行動パターンから紹介します。
ナルシシズムには顕在型と潜在型の2つが存在
「ナルシシズム」とは、自分を特別だと思ったり、自分のことを考えすぎたりする性格のことです。
そして、ナルシシズムには、「目立ちたがりタイプ(顕在型ナルシシズム)」と「傷つきやすいタイプ(潜在型ナルシシズム)」の2つがあることが広く認められるようになってきました。
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顕在型ナルシシズム:外向的で自信過剰、他者より優れていると感じる傾向があります。
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潜在型ナルシシズム:内向的で敏感、他者からの評価に過敏に反応し、自己評価が不安定です。
顕在型ナルシシズムは、ナルシストと聞いて思い浮かぶ一般的なイメージに近いでしょう。それに対して潜在型ナルシズムは、ぱっと見ナルシストには見えないのに、「自分は特別扱いされるべき」と信じている人です。
潜在型ナルシシズムは「自信がないけど特別扱いされたい」厄介な人
2013年に発表されたウェルズリー大学などの研究では、「傷つきやすいナルシシズム(潜在型ナルシシズム)」をより正確に測るための新しい質問紙(MCNS)が開発されました。
内容
潜在型ナルシシズムを従来よりももっと正確に測るための新しい質問表(MCNS)をつくり、その効果を確かめた。まず、オンラインで420人の大人に質問表に回答してもらった。加えて、性格や気持ち(自尊心やビッグファイブ)との関係を調べた。
結果
- 新しい質問表(MCNS)は、潜在型ナルシシズムを測るこれまでの質問表よりも信頼できる数値が高かった。
そして、潜在型ナルシシズムを持つ人は、顕在型ナルシシズムを持つ人と比べて以下の傾向が見られました。
- 恥ずかしさを感じやすい気持ち(=羞恥感)と強くつながっていた。
- 自分を信じる気持ち(=自尊心)が低かった。
- 不安を感じやすさ(=神経症傾向)が高かった。
- 明るさや活発さ(=外向性)も低かった。
また、顕在型ナルシシズムと潜在型ナルシシズムの両方に見られた特徴は以下の通りでした。
- 「自分が特別扱いされて当然だ、もっと評価されるべきだ」という不満や怒り(=権利意識に基づく怒り)が強い
- 他人とうまくやる力(=協調性)が低い(潜在型ナルシシズムの方がより低い)
- まじめさ(=誠実性)が低かった(潜在型ナルシシズムの方がより低い)
考察
この研究を簡単にまとめると、
潜在型ナルシシズムを持つ人は、他人の評価に敏感で、傷つきやすく、自分に自信がない一面があるものの、「自分は特別扱いされるべき」という考えを持ち、否定されると怒りを覚えるという厄介な性格と言えるでしょう。
また、意外な点で言うと、他人とうまくやる能力や真面目さは潜在型ナルシシズムの方がより低いとわかりました。目立ちたがり屋な顕在型ナルシシズムの方が、手段として周りと協力したり、認められるために努力したりするからでしょう。
まとめると、
- 顕在型ナルシズムの人は自分に酔っていて目指したがり屋なので集団に溶け込んだり明るくふるまったりするのも得意。
- 一方で、潜在型ナルシシズムの人は卑屈だが実はプライドが高く自分が否定されると怒りを感じる…
このような人物像が浮かんできます。
潜在型ナルシシズムがわかる23の項目
以下に、実際に研究で開発された潜在型ナルシズムを測定する質問をまとめました。項目により当てはまるほど潜在型ナルシズムの傾向が強いと言えます。
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私は、自分の私事や健康、悩み、人間関係などについて考えることに没頭してしまうことがある。
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他人からからかわれたり、軽くあしらわれたりすると、すぐに傷ついてしまう。
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部屋に入ると、他人の目が自分に向いているように感じて、意識してしまうことが多い。
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成果の功績を他人と分け合うのは好きではない。
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他人の悩みを気にかける余裕はなく、自分のことで手一杯だと感じる。
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自分は生まれつき、他の人とは性格的に違っていると感じる。
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他人の発言を、自分に向けられたものとして捉えることがよくある。
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自分の関心事に夢中になり、他人の存在を忘れてしまうことがある。
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その場にいる誰か一人でも自分を評価してくれていない限り、集団の中にいるのは好まない。
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他人が悩みを相談してきて同情を求めてくると、内心イライラしたり迷惑だと感じる。
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見た目の良い人に対して嫉妬してしまう。
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批判されると、屈辱を感じやすい傾向がある。
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自分の良いところを、なぜ他の人はもっと評価してくれないのかと不思議に思う。
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他人を「素晴らしい人」か「最低な人」のどちらかとして見てしまいがちだ。
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理由もなく、暴力的な妄想を抱くことがある。
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成功や失敗に対して特に敏感である。
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自分の抱えている問題は、誰にも理解されないと思うことがある。
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拒絶されることを避けるためなら、どんなことでもしようとする。
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自分の秘密の考え、感情、行動を知ったら、友人の何人かは恐怖を感じるかもしれない。
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相手を交互に「大好き」と「嫌い」と感じるような関係に巻き込まれることがある。
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友人グループの中にいても、ひとりぼっちで不安を感じることがよくある。
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自分にないものを持っている人に対して、恨めしく思ってしまう。
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敗北や失望を味わうと、恥ずかしさや怒りを感じるが、それを表には出さないようにしている。
今回の実践内容では、潜在型ナルシズムがより具体的な場面でどのように垣間見るかを解説していきます。
【実践】身近なあの人の潜在型ナルシシズム度合いを見抜こう!
潜在型ナルシシズムが発揮される場面を具体的に掘り下げていきます。「あの人もしかして…」と思い当たる人がいれば、以下の特徴に当てはまるかどうかを考えてみましょう。
1. 軽くいじった時、反応が予想以上に重い
観察ポイント
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軽口や冗談、軽い指摘にも、微妙な間を置いた後に沈黙や不機嫌、または過剰な自己正当化で返す。
- 必要以上に傷ついたり、不機嫌になる。
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急に落ち込んだり、話題を切り替える、距離を取るなどの「逃げ」が見られる。
関連項目
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からかわれると傷つく
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批判に屈辱を感じる
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成果を他人と分け合いたくない
2. 賞賛・注目されていない場面で急に元気をなくす/疎外感を訴える
観察ポイント
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グループ内で他の人が褒められると、静かになる/姿勢が崩れる/不自然に話に割り込む。
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話題の中心にいないとき、急に疲れたように見える/帰りたがる/そわそわする。
関連項目
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自分の良いところが評価されないと不満に思う
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自分だけが評価されていないと感じやすい
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嫉妬や比較心を抱きやすい
3. 人に親身になることに冷淡、他人の相談に不快感を示す
観察ポイント
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他人の悩みに対して「大変だね」と言いながらも、声や表情にうんざり感がにじむ。
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同情よりも「何がそんなに大変なの?」と正論めいた返しをする。
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相談中に話をさえぎって、自分の話にすり替えることも。
関連項目
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他人の悩みに共感しづらい
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自分のことで精一杯
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他人の相談にイライラする
4. 親しくなった後の「態度の急変」や「極端な感情の揺れ」
観察ポイント
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仲良くなったと思ったら突然距離を取る、既読スルーが増える。
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相手への評価が日によって極端に変わる(例:「あの人ほんと優しい」→「あの人って信用できない」)。
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好意や信頼を得ると依存的になるが、ちょっとしたことですぐ怒る/冷たくなる。
関連項目
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人を理想化・失望のどちらかに分けやすい
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好きと嫌いが極端
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拒絶されることを強く恐れる
5. 人前で「自分だけ浮いている」「どうせ誰もわかってくれない」風の演出
観察ポイント
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輪に入っていても、あえて孤独を演出するような発言(「私、こういうの苦手でさ」「どうせ私は…」)。
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感情的に入り込みすぎる話題を避けて話を逸らすが、その後ずっと黙り込む。
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他者が無視しているわけではないのに「自分は外されてる」と感じる様子が垣間見える。
関連項目
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集団の中で不安を感じやすい
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自分の悩みは理解されないと感じる
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その場に一人でも自分を評価しない人がいると安心できない
6. 賞賛・成功にこだわる一方、失敗や否定に極端に敏感
観察ポイント
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ちょっとした失敗(たとえば報告ミス)に対して、必要以上に落ち込み、言い訳が多くなる。
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成功時は過度に自慢する、周囲へのアピールが強くなる。
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ミスや批判をされた場面で、その場では黙っているが、後から愚痴や陰口が多くなる。
関連項目
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成功や失敗に敏感
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批判されると屈辱を感じる
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敗北に恥ずかしさや怒りを感じるが表に出さない
7. 他人の見た目・ステータスに対して強い敵意・比較心がにじむ
観察ポイント
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きれいな人や目立つ人に対して、見た目を褒めつつも「でも性格悪そうだよね」と落とす。
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SNSでの他人の自慢に過敏に反応(無視・悪口・皮肉)。
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自分と似たタイプの人が賞賛されると、急にその人を避けるようになる。
関連項目
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見た目の良い人への嫉妬
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自分にないものを持つ人への恨み
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他人を極端に評価しがち
8. 距離を詰めるときは急接近、離れるときは急断絶
観察ポイント
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仲良くなるまでのスピードが早い(急に連絡頻度が上がる、プライベートを話す)。
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一度でも失望や疑念を感じると、急に連絡が来なくなる、無視される。
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付き合いが深まるほど、コントロールや承認要求が強くなる傾向。
関連項目
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相手を「大好き」と「嫌い」の間で揺れ動く
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拒絶を避けるためならどんなことでもしようとする
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人との距離感が極端
まとめ:
人との関係は、「言葉」よりも「空気」でつまずくことが多いものです。
潜在型ナルシシズムの人は、本人も無自覚のまま周囲に“見えない圧”を与えることがあります。でも、その構造が分かれば、必要以上に振り回されることも減っていきます。
大切なのは、「自分がおかしいんじゃないか」と責めすぎないこと。
誰かに不自然に気を使いすぎてしまうときは、相手の心の動きにヒントがあるかもしれません。
もしこの記事が、あなたの「なんか疲れる人間関係」に少しでも意味を与えられたなら嬉しいです。
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