今回はマーケティング担当者や商品の企画者に向けた内容です。人間は自分の好みを自分で説明することができないことについて解説します。
アンケートやインタビューで消費者の意見を聞いても、その内容に沿って商品を企画したとしてもヒットしない可能性があるのです。商品企画で無駄足を踏まないように、「チョイスブラインドネス」という現象を知っておきましょう。
好みの商品をすり替えられても33%しか気づかない!?
チョイスブラインドネスとは、自分の選択の理由を明確に理解できている人は少ないという現象です。例えば、商品を買うときに自分がなぜその商品を買ったのかという本当の動機を理解することができていません。
実際に、2010年にルンド大学などの研究者たちによって発表された研究によると、人は自分が選択したことについて明確な理由を説明できないことが明らかになりました。


内容
自分が好みとして選んだ味・香りに関して、「選択したと思っていたもの」と実際には異なるものが提供されたときに、どのくらいその違いに気づかないかを調べた。
- 通行人180人を対象。スウェーデンのスーパーマーケットに試食スタンドを設けて、通行人個人に商品のペアのうちどちらが好みかを選んでもらった。
- 2種類のジャムのペア、2種類の紅茶のペアを用意して試食してもらい、どちらが好きかを選んでもらう。
- 選んだ方について「なぜそれを選んだのか」という理由を述べてもらう。
- 容器の仕掛け(隠れた仕切り付き容器で中身を入れ替えられる)を使って、中身を入れ替えてもう一度試食してもらう(つまり、選んだはずと思っている方を差し出すが実際には選ばなかった方が入っている)。
- 再び、「なぜそれを選んだか」という理由を尋ねる
結果
- 入れ替えたことが発見された(「そう言えば味が違うかも」と気づいた)のは、ジャムで約33.3%、紅茶で約32.2%だった。
- 飲んだ瞬間に気づき、入れ替えトリックそのものをその場面で見抜いたのは、ジャムで約14.4%、紅茶で約13.8%だった。
- なお、入れ替えた後で再度味や香りを確かめさせた後でも、参加者は最初に選んだものだと信じて、その理由を述べる傾向があった。
- また、違いが大きいペア(紅茶のペアはより違いが大きい)の方が発見率は高くなる傾向があったが、それでも完全には発見されないケースが多い。
考察
つまり、人間は自分が選んだと思った商品であっても、自分が選択した理由を一貫して説明できるとは限らないということです。
なぜなら、研究では自分が選んだ方ではない商品について、入れ替わっていると気づかないまま選んだ商品の説明をしているからです。例えばですが、シナモンアップルを選んだ人が、苦いグレープフルーツを試飲しながら「独特な風味が甘みを引き立てていますね」と言っている状態です。シナモンアップルを選んだ理由が本当にそうなのかと疑うところでしょう。
このことから、人間は明確な理由を持って商品を選択するのではなく、商品を選んだ後に後付けして説明を作っている可能性があります。もしくは、自分の選択や好みを完全に自分が理解できているわけではなく、もっと直感的に好みだと判断しているのかもしれません。
つまり、アンケート調査やインタビューで「なぜこの商品を選んだのか」というリサーチをしても、消費者の好みを完全に理解できるとは限らないのです。
ポリコレを意識しすぎた?FPSゲーム「CONCORD」の大失敗
消費者の意見を真に受けて失敗した事例として「CONCORD(コンコード)」というゲームが印象的です。2024年8月23日に販売されましたが、プレイヤーが集まらずに2週間というスピードでサービス停止になってしまいました。
- 原因の一つとして、キャラクターデザインの魅力の少なさが挙げられています。というのも、CONCORDでは「ポリコレ」に配慮をしていたからです。
- ポリコレとは、「ポリティカル・コレクトネス」の略称です。特定の人物に対して不快感や不利益を与えないようにする行為のことです。例えば、人種・信条・性別・体型などの違いによる偏見や差別を含まない表現や用語を使用することを指します。
- 実際に、CONCORDでは美男美女のキャラクターが登場せず、様々な体型のキャラクターが登場していました。逆に、極度に性的に誇張されたキャラクター(過剰に胸が大きい、ウェストが細いなど)は登場しませんでした。

しかし、美男美女だけを登場させたり、性的に誇張されたキャラクターを登場させたりする文化が嫌われる風潮があるのは確かです。まさに消費者の意見と実際の売り上げが結びつかなかった事例でしょう。
ここで考えるべきは、やはり消費者が言葉で求めていること、実際に求めていることにはギャップがあるという点です。
実際に、アメリカのオハイオ州立大学の研究でも、ゲームの女性プレイヤーは性的に誇張されたキャラクターを嫌悪しているにもかかわらず、実際にゲームプレイする時には性的に魅力的なキャラクターを選びやすいことがわかっています。
女性ユーザー✕ゲームで考えると…
- 実際の声:性的に誇張されたキャラクターには嫌悪感を覚える。
- 真の声:でも、ゲームでは魅力的なキャラクターを操作したいな。
もしもゲームのユーザーをアンケート調査で、そのゲームを選んだ理由を聞けば、女性ユーザーたちは「キャラが魅力的だったから」とは言わないでしょう(性的誇張に対して嫌悪感はあるから)。
しかし、実際にプレイするときには性的に魅力的なキャラクターを使っているため、もしもそのようなキャラクターを廃止すれば、売れ行きは悪くなってしまいます。
【実践】消費者の声だけでなく、実際のデータを加味したマーケティング戦略をとろう!
ステップ1:消費者の自己報告に頼り過ぎないようにしよう
「なぜ買ったか」というアンケートやインタビューは参考にはなりますが、消費者の真の声を掴めているとは限りません。「消費者はこう言ってるから…」という声をそのまま採用せず、実際のデータ検証が必須です。
例
- アンケートやインタビューだけではなく、行動データ(購買履歴、クリックパターン、滞在時間など)と組み合わせる。
ステップ2:商品改善を多面的にやっていこう
商品を企画したり改善したりする際には、機能や価格だけでなく様々な側面があると思います。
例
- 「この機能が好き」と言っていても、本当は別の要素(デザインや価格)が効いているかもしれない。
ステップ3:実例で学んでみよう
ゲーム購入の事例
- 本人の説明:「ストーリーが奥深そうだから買った」
- 実際の理由:パッケージや広告で目立っていたキャラクターデザインに強く惹かれていた。
- →データ的には、キャラ人気のあるタイトルが売上を押し上げていた。
コーヒーの選択の事例
- 本人の説明:「苦味がしっかりしていて味が好みだから」
- 実際の理由:店内で飲んだときのカップデザインやラベルの色合いが無意識に「高級感」を与えていた。
- →実験的にブラインドテストすると、味の好みは説明と一致しない。
スニーカー購入の事例
- 本人の説明:「機能性が良くて歩きやすそうだった」
- 実際の理由:街で同じブランドを履いている人を何度も見ていて、無意識にトレンド感を重視していた。
- →購買履歴からも流行アイテムに惹かれる傾向が強く表れていた。
化粧品(スキンケア)購入の事例
- 本人の説明:「配合成分が安心できそうだった」
- 実際の理由:広告やパッケージに有名女優が起用されており、そのイメージが購入を後押ししていた。
- →成分は競合商品と大差なし。
食品(ヨーグルト)の事例
- 本人の説明:「健康に良さそうだから選んだ」
- 実際の理由:スーパーで手に取ったとき、パッケージの青色が「清涼感・ヘルシー感」として働いていた。
- →同じ味でも別デザインでは売上が低かった。
まとめ
消費者は自分の選択理由を正確に説明できず、後付けで理由を語る傾向があります。そのため、アンケートやインタビューだけでは「本当の購買動機」を捉えることは困難です。
マーケティングや商品企画では、
- 自己申告を鵜呑みにせず行動データを観察すること
- 消費者が言葉にしにくい潜在的な好みを見極めること
- 表面的な声と実際の選択のギャップに注目すること
が成功につながります。ユーザーの言葉と行動のズレを理解することで、より本質的なニーズに応える商品づくりが可能になるでしょう。

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