何か好きなことがあって熱中している人は羨ましく感じますよね。逆に、好きなことがないと「自分は何者でもないのだ…」と虚しい気持ちになるものです。しかし、何かを始めてもすぐに飽きてしまったり、自分には向いてないと感じてあきらめてしまったりする人は多いです。
実は、情熱を燃やし続けられる人は「グロウスパッション」という普通の人とは違う考え方を持っているのです。
情熱を燃やし続けられる人は「グロウスパッション」で考える!
「グロウスパッション」とは、「本当の情熱は何かをやっているうちに生まれてくるものだ」という考え方のことです。一般的には、情熱は見つけるものと考えられていますが、それは間違いです。情熱は見つけるものではなく、育てていくものなのです。
実際に、「最初はあまり面白くないと思えたけどやっているうちに面白いと思えるようになってきた」という経験があるかと思います。
2018年に発表されたイェールNUS大学の研究によると、グロウスパッションを持っている人の方が難解な論文を読んだときにも興味を失いにくかったことが示されています。
研究では情熱の持ち方について2種類に分けて考えられました。
- 情熱の持ち方が成長的:新しい分野に触れたときに、自分の関心領域でない分野に関しても関心を持つ可能性がある
- 情熱の持ち方が固定的:新しい分野に触れても自分の関心が変わることはない
当然、グロウスパッションを持っているのは前者の情熱の持ち方が成長的な方です。なお、論文では全部で五つの研究が実施されていますが、ここではそのうち二つの研究を紹介します。
- 被験者:平均年齢23歳の126人の大学生(スクリーニング後)
- 内容:被験者が関心のある論文とない論文を読ませて、情熱の持ち方によって論文への興味がどう変わるかを調べた
方法
被験者の情熱の持ち方に関する心持ちを評価した上で、二つの論文記事を読んでもらった。なお、二つの記事は被験者にとって興味をそそられるものと興味薄いものの2種類が用意された。なお、被験者が回答した項目は以下の通り。
- 情熱の持ち方:情熱に関しての心持ちに関する以下の四つの項目に六段階で回答してもらった。
- 「正直言って自分の核となる興味は自分の核となる興味であり続け、それが本当に変わることはない」
- 「自分の興味がどれだけ自分にとって中心的なものであってもそれが大きく変わることはある」
- 「新しいことに触れても自分の中心的な興味は本当に変わることはない」
- 「非常に強い興味を持っていてもそれが劇的に変わることもある」
- 記事への関心度合い:記事を読んだ後に、記事への関心度合いを測る11項目に七段階で回答してもらった。(例:「この記事を読んでワクワクした」「この記事で取り上げられたトピックについてより学びたいと思った」など)
結果
- 情熱の持ち方が固定的な人ほど、興味とマッチしてない記事を読んだ時に関心が薄かった
- なお、自分の興味とマッチしている分野に関しては情熱に関しての心持ちは、関係なかった
- 被験者:70人の大学生(スクリーニング後)
- 内容:困難さに直面したときの情熱を維持することができるかどうかを調べた
方法
被験者には、ビデオと論文記事を見てもらってテーマに関する意見を共有してもらうと伝える。その際、被験者を二つのグループにランダムに分けて比較。
- 情熱の持ち方が固定的になるように誘導する記事を読んでもらうグループ
- 情熱の持ち方が成長的になるように誘導する記事を読んでもらうグループ
それぞれの被験者には天文学(ブラックホールや宇宙の起源についての内容)に関する簡単なビデオを見てもらう。なお、ビデオは一般向けに作られており、取っつきやすく刺激的と思える内容だった。
次に、被験者にはブラックホールに関するサイエンス(=科学学術雑誌)の論文記事を読んでもらった。なお、論文の内容は専門家向けに書かれており、ビデオと比べてはるかに専門的で難しいものだった。
なお、被験者にはそれぞれ以下の項目に回答してもらった。
- 関心度合い:ビデオを見た後と論文記事を読んだ後に、それぞれトピックに関する関心度合いを評価する質問に回答してもらった。(例:「このビデオの中で議論されていることは私にとって重要だ」「ビデオ知ったことは私にとって魅力的だった」など)
- 難解さの評価:論文記事を読んだ後には論文の内容をどれぐらい難しいと感じたかも回答してもらった。(「この記事を理解することは難しかった」「この記事で議論されていることについて行くことは難しかった」)
結果
- ビデオを観た後の段階では、ブラックホールへの関心は被験者全体で強く、情熱の持ち方による関心度合いの差はみられなかった。
- 論文を読んだ後の段階では、情熱の持ち方を成長的にされたグループと比べて、情熱の持ち方を固定的にされたグループはブラックホールへの関心が落ちた
- 情熱の持ち方が固定的でも情熱の持ち方を成長的でも、理解をするのに簡単だと感じた被験者と比べると、難しいと感じた被験者ほどブラックホールに対しての関心は低下した。しかし、難しいと感じた被験者の中でも情熱の持ち方を固定的にされたグループの方がより興味を失っていた。
要約・考察
- 一つ目の研究では、グロウスパッションを持っている人ほど自分が興味のない分野でも関心を維持することができた
- 2つ目の研究では、教材が簡単な場合にはグロウスパッションの有無に関わらず興味を持てた
- しかし、教材が難しくなった場合にはグロウスパッションを持っている人のほうが興味を維持できた
グロウスパッションの考え方を持つだけで物事に粘り強く取り組むことができるようになり、その結果自分の好きなことが定まってきます。なぜなら、「情熱は後からついてくる」と考えれば、最初は難解に思えても「もう少し続ければ面白くなるかもしれない」という考え方ができるからです。
逆に「好きなことだけをやろう」という考え方にとらわれると、自分の情熱を発掘するチャンスを逃してしまいます。せっかく何かに興味を持っても、困難に直面すると「やっぱり自分の興味のある分野ではなかった」と諦めがちだからです。
2つ目の研究は特に面白いと思います。天文学について面白くまとめてくれているビデオを見た時には被験者は全体的に高い興味を示しました。これはYouTubeなどで手軽に動画を視聴するのと似ています。一般向けに解説されている動画でなら興味を保つことができるという人は実際に多いでしょう。
しかし、重要なのはより専門的で高度なことに粘り強く取り組むことができるかという点です。自分が本当に好きなことを突出させていくためには、多少の退屈や困難を我慢して乗り越える必要があると言えます。
【実践】「情熱は後からついてくる」と考えて、粘り強く取り組もう
ステップ1:興味を持ったことを素直に始めてみる
自分の好きなことを育てるために、まずは純粋に興味を持ったことに取り組んでみましょう。この際に、動機が不純であっても自分には向いていないと思ってもとりあえず始めてみることが重要です。
例:
- スポーツの漫画を読んで面白そうだと思ったから独学でスポーツを始めてみる
- できたらモテそうだと思ったので楽器の演奏を始めてみる
- 書店で見かけた生き物の本が面白かったので、生物学をより本格的に勉強してみる
ステップ2:「情熱は後からついてくる」と考えて1年は続けてみる
わかりやすく、1年を目安に続けてみましょう。「やっぱり自分には向いていないかな」と思ったことにも、一年間は頑張って取り組んで見るのです。
よくメディアでは「自分の好きなことをやろう!」と発信されています。実際に、好きなことをして活躍している有名人もいます。しかし、今活躍している有名人であっても最初から自分の好きなことができていたわけではないでしょう。面倒なことを我慢したり、難解なスキルを身につけたりなど必ず壁にぶつかる段階があったはずです。例えば、ふざけているだけに見えるYoutuberであっても高度な編集スキルを身につけたり、取材や編集で長い時間をかけたりしているはずです。
ステップ3:アプローチを変えて取り組もう
粘り強さだけでなく柔軟性を発揮しましょう。「面白くない」と思った時には、アプローチの方法を変えてみるのです。実際に、筆者も統計学を学習するときに最初に統計学検定のお堅い教材を選んでしまったので、なかなか学習が進んでいませんでした。
そこで、より具体的なケースで解説している入門書を探したり、自分の興味のある論文を読んで実際に統計の考え方を使っている記述を見てみたりといった工夫をしました。おかげで最近は統計学の専門書を読んだり、データを読んだりするのが楽しくなっています。
皆さんもぜひ自分自身の情熱をじっくり育ててみてください。
【関連知識】
情熱は後から付いてくるという考え方は趣味だけでなく仕事においても重要です。

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